ノーススターメトリックの定義
ノーススターメトリックとは何か
ノーススターメトリックとは、事業成長を測る上で最も重要な単一の指標です。
「North Star(北極星)」は古来より旅人や航海者が方角を知るための目印として使われてきました。ノーススターメトリックは、組織全体が向かう「北極星」のような存在です。
複数のKPIがある中で「これが改善すればビジネスは成長する」と言える最重要指標を1つ定義したものです。
なぜ「単一の指標」が重要なのか
ノーススターメトリックが「単一」であることには理由があります。
集中の効果があります。複数の指標を追うと、チームの注力が分散します。1つの指標に絞ることで、全員が同じ方向を向いて改善に取り組めます。
意思決定が明確になります。「この施策はノーススターメトリックを改善するか」という基準で判断できます。意思決定がシンプルになります。
部門間の連携が促進されます。営業、マーケティング、プロダクト、カスタマーサクセスなど、異なる部門が同じ指標に向かいます。サイロ化を防げます。
KGI・KPIとの違い
ノーススターメトリックとKGI、KPIの関係を整理します。
KGI(Key Goal Indicator)は最終的に達成したい目標を示す指標です。売上、利益、市場シェアなどが該当します。
KPI(Key Performance Indicator)はKGIを達成するために追跡する中間指標です。新規顧客数、継続率、アクティブユーザー数などが該当します。
ノーススターメトリックは複数あるKPIの中で「これが最も重要」と定義した1つの指標です。顧客価値と長期的な成長を示すものを選びます。
KGIが「目的地」、KPIが「途中経過を示す標識群」だとすれば、ノーススターメトリックは「最も重要な標識」にあたります。
ノーススターメトリックの条件
良いノーススターメトリックにはいくつかの条件があります。
条件1:顧客価値を反映している
ノーススターメトリックは顧客が感じる価値を反映している必要があります。
売上や利益は企業にとっては重要です。しかし顧客にとっての価値を直接示すものではありません。「顧客が価値を感じている状態」を数値化した指標が適切です。
例えばSpotifyの「リスニング時間」は、ユーザーが音楽を楽しんでいることを示します。顧客価値を反映した指標です。
条件2:長期的な成長と相関がある
ノーススターメトリックが改善すれば、長期的に売上や利益も向上する関係性が必要です。
短期的な売上と相関がなくても問題ありません。長期的なビジネス成長につながる指標を選びます。
例えば「DAU(日次アクティブユーザー数)」が増えれば、広告収入やサブスク収入も長期的に増えることが期待できます。
条件3:先行指標である
ノーススターメトリックは結果(遅行指標)ではなく、将来の成長を予測する先行指標であるべきです。
売上は「結果」であり、過去の活動の積み重ねです。一方、「アクティブユーザー数」や「エンゲージメント率」は将来の売上を予測する先行指標です。
条件4:チームが影響を与えられる
ノーススターメトリックはチームのアクションで改善可能な指標であるべきです。
外部要因(景気、競合の動き)で大きく変動する指標は適切ではありません。チームの努力で改善できる指標を選びましょう。
条件5:測定可能である
ノーススターメトリックは定期的に正確に測定できる必要があります。
測定が難しい、データ取得に時間がかかるといった指標はPDCAが回せません。リアルタイムまたは短期間で測定できる指標が理想です。
有名企業のノーススターメトリック事例
具体的な事例を見ると、ノーススターメトリックの概念がより理解しやすくなります。
Facebook「DAU(日次アクティブユーザー数)」
Facebookのノーススターメトリックは「DAU(Daily Active Users)」です。
DAUが増えれば、広告のリーチが広がります。広告収入が増加します。また、友人とつながる機会が増えるほど、ユーザーの価値体験も向上します。
Facebookは「10日間で7人の友達を追加する」をアハモーメントとして設定しました。これがDAUの増加につながっています。
Airbnb「予約された宿泊数」
Airbnbのノーススターメトリックは「予約された宿泊数(Nights Booked)」です。
宿泊数が増えれば、ホストへの収入が増えます。ゲストの旅行体験も増えます。プラットフォームの両面(ホスト・ゲスト)にとっての価値を示す指標です。
Spotify「リスニング時間」
Spotifyのノーススターメトリックは「総リスニング時間(Total Listening Time)」です。
ユーザーがSpotifyで音楽を聴いている時間が長いほど、音楽を楽しんでいることを意味します。リスニング時間が増えれば、有料プランへの転換率や継続率も向上します。
Slack「2,000メッセージ送信チーム数」
Slackのノーススターメトリックは「2,000メッセージを超えたチーム数」です。
2,000メッセージを超えたチームは、Slackがコミュニケーション基盤として定着した状態を意味します。有料プランへの転換率が高いことがわかっています。
freee「月間3回以上ログインユーザー数」
日本のクラウド会計ソフトfreeeのノーススターメトリックは「月間3回以上ログインしたユーザー数」とされています。
3回以上ログインしているユーザーは、freeeを業務フローに組み込んでいる状態を意味します。継続率が高いことがわかっています。
ノーススターメトリックの設計方法
自分のビジネスやクリエイター活動のノーススターメトリックを設計する方法を解説します。
ステップ1:顧客にとっての価値を定義する
まず「顧客がこのサービスから得ている価値は何か」を明確にします。
顧客価値の例を挙げます。時間の節約。コストの削減。楽しさやエンタメ。つながりやコミュニティ。成長や学び。
クリエイターの場合、ファンにとっての価値は何でしょうか。「推しのコンテンツを楽しむこと」「推しとつながる体験」「ファンコミュニティへの帰属感」などが考えられます。
ステップ2:価値を数値化する指標を洗い出す
顧客価値を数値で測れる指標を複数洗い出します。
指標の例を挙げます。アクティブユーザー数(DAU、WAU、MAU)。利用時間や利用頻度。特定アクションの実行数。エンゲージメント率。継続率やチャーンレート。
クリエイターなら、視聴時間、コメント数、メンバーシップ継続率、紹介数などが候補になります。
ステップ3:長期成長との相関を検証する
洗い出した指標と、長期的なビジネス成長(売上、LTV)の相関を分析します。
データ分析により「この指標が改善すると、売上が向上する」という関係性を確認します。相関が強い指標をノーススターメトリックの候補とします。
データが少ない場合は、仮説ベースで進めても構いません。後から検証し、修正します。
ステップ4:1つの指標を選定する
候補の中から最も重要な1つを選びます。
選定基準は4つあります。顧客価値を最も反映しているか。チームがアクションで改善できるか。測定が容易か。組織全体が理解・共感できるか。
迷ったら「これが改善すれば確実にビジネスが成長する」と言える指標を選びましょう。
ステップ5:組織に浸透させる
選定したノーススターメトリックを組織全体に浸透させます。
浸透のためのアクションは4つあります。全社ミーティングで共有・説明する。ダッシュボードで常に可視化する。各チームのKPIをノーススターメトリックに紐づける。定期的に進捗を振り返る。
個人クリエイターの場合は、自分自身が常に意識できる状態を作ります。スプレッドシートで毎週確認するなどの習慣化が重要です。
クリエイターのノーススターメトリック
クリエイターがノーススターメトリックを設定する方法を解説します。
クリエイターに適したノーススターメトリック候補
クリエイターがノーススターメトリックを設定する場合、以下のような指標が候補になります。
月間アクティブファン数(MAF)は、月に1回以上コンテンツを視聴・参加したファンの数です。ファンがアクティブに関わっている状態を示します。
総視聴時間は、ファンが視聴したコンテンツの合計時間です。コンテンツの価値と満足度を示します。
メンバーシップ継続率は、有料メンバーが翌月も継続している割合です。ファンの満足度とロイヤルティを示します。
紹介経由の新規ファン数は、既存ファンの紹介で獲得した新規ファンの数です。ファンの熱量と満足度を示します。
エンゲージメント率は、コンテンツに対するいいね・コメント・シェアの割合です。ファンの関与度を示します。
なぜフォロワー数はノーススターメトリックに不適切か
フォロワー数はノーススターメトリックとして不適切な場合が多いです。
フォロワー数は「量」を示しますが「質」を示しません。フォロワーが多くてもエンゲージメントが低ければ意味がありません。
また、フォロワー数は外部要因(アルゴリズム変更、バズ)に左右されやすいです。チームの努力で改善しにくい指標です。
「アクティブファン数」や「エンゲージメント率」のほうが、ファンの質と継続的な成長を反映します。
紹介経由新規ファン数をノーススターメトリックにする理由
紹介経由の新規ファン数をノーススターメトリックにすることをおすすめします。理由は4つあります。
顧客価値の証明になります。紹介が発生するのは、ファンが高い満足度を感じている証拠です。「人に勧めたい」と思うほどの価値を感じています。
質の高い成長につながります。紹介経由のファンはLTVが高く、解約率が低い傾向があります。量より質を重視した成長ができます。
改善アクションが明確です。紹介プログラムの設計、特典の改善、紹介しやすいコンテンツ作りなど、アクションが具体的です。
先行指標として機能します。紹介が増えれば、将来的にファン数と収益も増加することが予測できます。
クリエイターのノーススターメトリック設計例
あるYouTuberがノーススターメトリックを設計する例を紹介します。
顧客価値の定義として「ファンが面白い動画を楽しみ、仲間と共有する体験」を設定します。
指標候補として、チャンネル登録者数、総視聴時間、動画のいいね率、コメント数、紹介経由の新規登録者数を挙げます。
検証の結果、「紹介経由の新規登録者数」が増えると、長期的にチャンネル登録者数と収益が安定して伸びることがわかりました。
選定として、ノーススターメトリックを「紹介経由の新規登録者数」に設定します。
理由は3つあります。紹介が発生するのはファンが高い満足度を感じている証拠であること。紹介経由のファンはLTVが高いこと。紹介を増やすための施策を打てること。
ノーススターメトリックの注意点
ノーススターメトリックを運用する際の注意点を解説します。
定期的に見直す
ノーススターメトリックはビジネスの状況に応じて見直す必要があります。
事業フェーズが変われば、最も重要な指標も変わることがあります。半年〜1年に一度は妥当性を検証しましょう。
例えば、立ち上げ期は「アクティブユーザー数」、成長期は「継続率」、収益化期は「有料会員数」と変わることがあります。
単一指標に固執しすぎない
ノーススターメトリックは最重要指標です。しかし他の指標を無視してよいわけではありません。
ノーススターメトリックだけを追い、他の指標(売上、コスト、チャーンレート)を無視するとバランスを崩すことがあります。他の重要指標も補助的に追跡しましょう。
ノーススターメトリックは「最も重要な指標」であり「唯一の指標」ではありません。
操作可能な指標を選ばない
ノーススターメトリックは「操作」されにくい指標を選びましょう。
例えば「登録者数」は広告で短期的に増やせます。しかしアクティブでないユーザーが増えても意味がありません。「アクティブユーザー数」や「継続率」のほうが、操作されにくく実態を反映します。
よくある質問(FAQ)
Q. ノーススターメトリックとKPIの違いは何ですか?
ノーススターメトリックは複数あるKPIの中で「最も重要な1つ」を指します。
KPIは複数設定されることが多いです。ノーススターメトリックは「北極星」のように組織全体が向かう方向を示す単一の指標です。
Q. ノーススターメトリックは売上でもいいですか?
推奨されません。
売上は「遅行指標」であり、過去の活動の結果です。ノーススターメトリックは売上につながる「先行指標」を選ぶことが推奨されます。アクティブユーザー数、継続率などが適切です。
Q. クリエイターにおすすめのノーススターメトリックは?
「紹介経由の新規ファン数」や「月間アクティブファン数」がおすすめです。
これらはファンの満足度と熱量を反映します。長期的な成長と相関があります。
Q. ノーススターメトリックはどのくらいの頻度で見直すべきですか?
半年〜1年に一度の見直しがおすすめです。
事業フェーズ、市場環境、プロダクトの変化に応じて、最適な指標が変わることがあります。
Q. 小規模なクリエイターでもノーススターメトリックを設定すべきですか?
はい、設定することをおすすめします。
規模が小さいうちから「最も重要な指標」を意識することで、効率的に成長できます。最初はシンプルに「月間アクティブファン数」や「紹介数」で十分です。
まとめ
ノーススターメトリックとは、事業成長を測る上で最も重要な単一の指標です。
良いノーススターメトリックの条件は5つあります。顧客価値を反映していること。長期的な成長と相関があること。先行指標であること。チームが影響を与えられること。測定可能であること。
設計の5ステップがあります。顧客にとっての価値を定義する。価値を数値化する指標を洗い出す。長期成長との相関を検証する。1つの指標を選定する。組織に浸透させる。
クリエイターには「紹介経由の新規ファン数」や「月間アクティブファン数」がノーススターメトリックの候補になります。ファンの満足度と成長を示す指標を設定し、継続的に追いかけましょう。